芳香族炭化水素受容体(AHR)は転写調節性因子の一つであり、様々な遺伝子の転写(遺伝子から酵素やホルモンなどのたんぱく質を産生すること)を促進します。
芳香族炭化水素受容体(AHR)はヒトの体内ほぼすべての臓器に存在・発現しており、特に肺や肝臓に多いことが分かっています。皮膚にも存在します。
皮膚と芳香族炭化水素受容体(AHR)の関係において、AHRは皮膚がんの発生と関わっていることが分かってきました。
紫外線による皮膚への障害、特に細胞のDNAへのダメージや炎症の誘導など、は皮膚がんの発生をもたらします。同様に大気汚染などの有害な環境因子も皮膚がんの発生を導きます。
紫外線が誘因となる皮膚がんには、メラノーマ(悪性黒色腫)、基底細胞癌、扁平上皮癌、メルケル細胞癌などが挙げられます。一方、ウイルス感染、大気汚染、喫煙、ヒ素などの化学物質、なども皮膚がんの原因となりえます。その中でも、環境汚染物質、例えばベンゾピレンをはじめとした高濃度の多環芳香族炭化水素(PAHs: polycyclic aromatic hydrocarbons)と皮膚がんの発がんとの関連が指摘されています。
紫外線(UVB)やPAHsの刺激により活性化されたAHRは細胞のアポトーシス(細胞死)を抑制することが分かっています。
アポトーシスとは、老化したりDNAにダメージを受けたりした細胞が自死することで組織を若く健康に維持するシステムです。
これが抑制されることで、ダメージを受けた細胞が残り、組織の老化や発がんが増加するのです。
さらにAHRの活性化は、DNAが受けたダメージを修復するシステムであるヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair : NER)の作用を阻害し、発がんが促進されることが分かっています。
さらに、紫外線(UVB)やPAHsの刺激によるAHRの活性化は、免疫と関係するリンパ球であるsuppressor-T細胞(抑制性T細胞)を誘導し、免疫の抑制を起こし、がんの増殖や転移を促進すると報告されています。
このように、AHRの活性化は、皮膚がんの発がんと関連しているのです。
しかしながら逆に言うと、このAHRの活性化を抑えれば、発がんのリスクを下げることが可能となります。
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<19/09/2024 札幌市 中央区 皮膚科 宮の森スキンケア診療室>