ヒトは常在する菌と共生しています。
常在する菌はヒトの体に約30兆個存在すると言われています。大部分は大腸に存在しています。
皮膚にも常在菌は存在しています。
約数十億から数百億個が存在します。
フローラとは、「植物叢(しょくぶつそう)」と言って「一定の区域内に分布する植物全体」を意味します。
この植物を常在菌に置き換えて考えたのがスキンフローラです。
いわゆる「皮膚の常在菌叢」のことです。
ヒトの皮膚常在菌は細菌と真菌からなっています。
ヒトの常在菌には、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、アクネ菌、マラセチア菌(真菌)などが存在します。
これらは、少ない栄養でも生存増殖が可能で、湿度の低い環境でも増殖できる強い菌種です。
表皮の角層の表面や細胞間、毛包内に存在し、角化物や汗、皮脂などを栄養としています。
この常在菌には善い作用と、健康に悪影響をもたらしかねない悪い作用があります。
常在菌の善い作用には3つの作用が考えられます。
〖1〗病原菌が皮膚に付着し侵入定着を防ぐために皮膚表面を弱酸性に保つ「酸外套(さんがいとう)」を作ること。表皮ブドウ球菌はプロピオン酸と乳酸を産生し、アクネ菌はプロピオン酸と酪酸を産生し皮膚表面を弱酸性に維持します。
〖2〗付着した病原菌に必要な栄養を皮膚表面から奪うこと。
〖3〗保湿効果のある物質を産生し、皮膚を乾燥から守り、病原菌の侵入を防ぐバリア機能を維持する。
常在菌の悪い作用は、感染症を起こすなど病原性を発揮します。
例えば黄色ブドウ球菌は、アトピー性皮膚炎の悪化に関与したり、伝染性膿痂疹(とびひ)の原因となったりします。
以上のような善い作用を持つ常在菌を“善玉菌”、悪い作用を持つ常在菌を“悪玉菌”と呼ぶことができます。
この観点から判断すると、表皮ブドウ球菌は善玉菌、黄色ブドウ球菌は悪玉菌、レンサ球菌は悪玉菌と考えられます。
アクネ菌には亜種が3種あり、タイプⅠ、Ⅱ、Ⅲに分けられます。このうちタイプⅠは炎症性ざ瘡で高頻度で確認され病原性が高いため悪玉菌とされています。タイプⅡ、Ⅲは炎症性ざ瘡での検出が少なく、また酸外套の生成に関わるため善玉菌とされます。
マラセチアは酸の分泌により酸外套に寄与する反面、脂漏性皮膚炎の原因になりうることから悪玉の中でもやや善玉寄りの悪玉菌と考えられます。
このように皮膚表面のスキンフローラの中で、善玉菌・悪玉菌がお肌の健康を維持するために日々駆け引きを行っているのです。
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<08/03/2023 札幌市 中央区 皮膚科 宮の森スキンケア診療室>